利根川河口から154km地点に位置する「利根大堰」は、農業用水、都市用水、浄化用水の取水を担う大型堰です。
首都圏の水需要の増加に応えるため、昭和38年(1963年)に事業実施計画が認可された「利根導水路事業」の基幹施設として、昭和43年(1968年)に完成しました。
「利根大堰」の長さは約500m。12門のゲートで堰上流の水位を一定に保っています。取水量は、利根川の年間流出量65.8億m3のうち18.1億m3 (平成18年時点)。通常はゲートを下げて利根川を堰上げていますが、台風などの影響で水かさが増した場合、ゲートを上げて放流します。

「取水口の幅は約124m。最大で毎秒134m3取水できます。『25mプールを2秒でいっぱいにする量』と例えるとわかりやすいかもしれませんね」と話すのは、水資源機構 利根導水総合事業所の渡辺和重主幹。取水口から取り入れた用水は、「見沼代用水路」、「埼玉用水路」、「武蔵水路」、「邑楽用水路」、「行田水路」に導水され、東京、埼玉、群馬へと運ばれます。
同事業所の中川正彦課長によれば、「都市用水を利用している人は1,100万人。東京都の約4割、埼玉県の約8割の水道用水をまかなっています。
農業用水を利用する水田の面積は、東京ドーム6,400個分に相当する2万9,000haです」。

この数字からも、「利根大堰」が首都圏の生活と農業の近代化を支えた要所であることがうかがえるでしょう。ちなみに行田水路は、行田浄水場へ分水しており、行田市をはじめ埼玉県北部の大切な水資源として利用されています。
また、隅田川を浄化するための「浄化用水」も、実は利根川から取水されています。河川水を他の河川の浄化に役立てる試みは、日本初。平成18年(2006年)には、利根川から約7千万m3の河川水が隅田川に注ぎ込まれました。



江利根川は、サケやアユが遡上する河川です。「利根大堰」には、魚の遡上に配慮して、建設当初から「魚道」が3基設置されました。平成7年から魚道の遡上性能の改善が施され、遡上量も年々増加しています(アメリカのアイスハーバーダムの魚道を参考に改良)。
埼玉県側の1号魚道には、「大堰自然の観察室」が設けられ、春(5月頃)にはアユが、秋(10月〜12月)にはサケが遡上する様子を間近に眺めることができます。
周辺には、行田サイクリングセンターを始点とする利根サイクリングコース(利根川の堤防に作られた全長16.7kmのサイクリングロード)、運動グラウンド、大きな風車の建つ見沼元圦公園なども隣接し、自然を楽しめるレジャースポットとしても知られています。 男体山、赤城山、浅間山、筑波山、富士山まで、360°のパノラマを望む「利根大堰」。堤防に立てば、爽やかに吹き抜ける利根川の風を感じることができるでしょう。


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