脚本を書くにあたり和田さんは、実際に何度も現地に足を運んだそうです。
 「初めて行田市を訪れた時は、とても広いなと感じました。少し残念なのは、城下町の範囲がそのまま都市部として開発されたので、実は当時の痕跡があまり残っていないことですね。それでも駅前で貸自転車を借りて市内をあちこち巡りました。このスーパーがある場所は忍城のこの辺りかなとか、侍の屋敷はここの辺り、深田や沼地はこんな風に見えるはず、などと本丸との位置関係を確認しながら、リアルさを物語に出すため丁寧に見て回りました」
 その後も小説化、今回の映画化などで行田市にはたびたび取材で訪れています。
 「地元の方からお話を伺うたび、皆さん本当に行田が好きで自分のコミュニティを大切にしていると感じます。私は子供の頃から引越しを繰り返していましたので、あまりふるさとの感覚がありません。誇るべき郷土を持っているということは非常に素晴らしいと思います」
 「忍城のことは、行田市に住む会社の後輩から初めて聞きました。それまでは名前すら知りませんでした」
  こう語る和田竜さん脚本の映画『のぼうの城』が、来年の秋に公開されます。平成19年(2007年)にはひと足早く小説化されてベストセラーを記録、直木賞候補にもなりました。
 作品誕生のきっかけは、繊維業界紙に勤めながら映画脚本家を目指していた10数年前、酒の席で後輩から聞いた郷土自慢でした。
 「行田市から都内まで2時間かけて通勤するほど、本当に地元が大好きな後輩です。彼が入社したての頃、飲みに誘った店で『実は行田には忍城という城があって…』と、石田三成による水攻めの話などをあれこれ嬉しそうに話すのです。これを聞いて『絶対にいいシナリオになる!』と思いました」
 数年後に『忍ぶの城』というタイトルで映画脚本賞「城戸賞」に応募したところ、見事入選し今回の映画化につながりました。

映画「のぼうの城」

2012年秋 全国東宝系超拡大ロードショー

 天下統一を目前に控えた豊臣秀吉の命により、石田三成率いる2万人が忍城に迫りくる。対する忍城を守る兵隊はわずか500名。“のぼう様”と領民から慕われる城代の成田長親は、果たして城を守り通すことができるのか。
 出演者は、8年ぶりの主演である野村萬斎をはじめ、佐藤浩市、市村正親などベテラン俳優や、榮倉奈々、成宮寛貴など豪華キャストが勢ぞろい。犬童一心(『ゼロの焦点』)と樋口真嗣(『日本沈没』)のふたりが監督をつとめるという超豪華なラインナップで公開する。
©2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ
出演: 野村萬斎、榮倉奈々、成宮寛貴、山口智充 、上地雄輔、山田孝之、平 岳大、市村正親、佐藤浩市
監督:犬童一心、樋口真嗣
脚本:和田竜 小学館『のぼうの城』
制作: IMJエンタテインメント、アスミック・エース エンタテインメント
製作:『のぼうの城』フィルムパートナーズ
配給:東宝、アスミック・エース
公式サイト nobou-movie.jp(WEB/モバイル)


やはりCG表現には限界があることを観客のみなさんも気づいていますし、実物の迫力にはかないません。野外セットも忍城をはじめすごく大掛かりで、予算も大変だったようです。さまざまな方の協力で念願の映画化が実現し嬉しく思っています」
 来年の秋は映画を通じて忍城、そして行田の歴史と魅力を再発見してみてください。
PROFILE
和田竜 (わだりょう)


1969年12月、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。番組制作会社、繊維業界紙記者を経て、2003年に脚本『忍ぶの城』で城戸賞を受賞。2007年に同脚本を元に『のぼうの城』(小学館)を刊行し、小説家デビュー。直木賞候補、本屋大賞2位を獲得。他に『忍びの国』(新潮社)、『小太郎の左腕』(小学館)。
 映画では、正木丹波守利英をはじめさまざまな個性的キャラクターが活躍します。その中でも、領民から“のぼう様”と親しまれているものの、あえて動きの少ない城代・成田長親を主人公にしたのには理由がありました。
 「一番活躍したと言われる正木丹波守が主人公でもいいのですが、そうすると主人公ばかり注目されて、2番手以下の人物に目がいかなくなりがちです。今作品では、甲斐姫や配下の侍大将たちはもちろん、戦いに協力する領民たちの動きや内面もしっかりお客さんに見て欲しかったのです。そこで、あえて長親を中心に据えて、各登場人物の動きが集約されるような物語にしました」物語の軸となる水攻めや合戦シーンなど壮大で迫力ある場面も頻繁に登場します。
 「なるべくC G(コンピュータグラフィックス)を頼らないようにしています。水がドーンと堤を破るような場面でも、本物の水を何十トンも落として堤の映像と合成する方法をとっています。



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